歌舞伎の異端児・市川猿翁が遺した革命と澤瀉屋が歩む宿命の道
彼の名を語る上で外せないのは、半世紀近くにわたり劇場を熱狂の渦に巻き込み続けた「三代目 市川猿之助」としての時代だ。祖父と父を相次いで亡くし、後ろ盾を失った若き役者を待ち受けていたのは、冷遇と孤立無援の荒波だった。だが、彼は屈しなかった。古典の徹底的な再解釈に活路を見出し、『義経千本桜』の「四の切」で見せた狐忠信の跳躍は、観客の度肝を抜いた。
澤瀉屋の屋号を背負い、がむしゃらに駆け抜けた日々。歌舞伎の根底にある「大衆を熱狂させる力」を誰よりも信じていたのは彼自身だった。2012年、名跡を甥に譲り自らは二代目 市川猿翁を襲名した際、その胸中に去来したのは栄光への執着ではなく、歌舞伎の未来そのものであったに違いない。