都市を駆け抜ける身体表現の真実。魅せる大技を超えた移動の美学
多くの人が抱く「派手なパフォーマー」というイメージは、この運動が持つ本来のルーツとは少し異なる。1980年代後半、フランスの郊外リス(Lisses)で誕生したこの実践の根底には、フランス軍のヘリコプター救助隊員だったレイモン・ベルが実践していた軍事訓練「ナチュラル・メソッド(Méthode Naturelle)」が存在した。走る、跳ぶ、登る、這うといった人間本来の身体機能を研ぎ澄まし、いかなる危機的状況下でも他者を救助し生き残るための実用的な術である。
この訓練法を息子である創始者ダヴィッド・ベルが受け継ぎ、都市空間に応用させたことで現代の形が作られた。ダヴィッド・ベルの理念は「Être et durer(役に立つために強くあれ)」という言葉に集約される。単に見せびらかすためのフリップ(空中回転)や装飾的な動きを排除し、スタート地点からゴールまで最小限のエネルギーで最短・最速で到達すること。それが彼らの求めた純粋な移動の美学であった。