難民危機を変えた緒方貞子 現場主義と知られざる外交の舞台裏
旧ユーゴスラビア崩壊に伴うバルカン半島の紛争は、彼女のキャリアにおいて最も過酷な試練となった。人道支援物資が武装勢力によって強奪され、援助が政治利用される中、彼女は強硬な手段を講じる。1993年、安全が確保されない限りサラエボへの支援活動を全面的に停止するという衝撃的な声明を発表したのだ。
この決断は国際社会に激震を与え、当時は強い批判も受けた。しかし、これは各国の指導者や関係者に対し、「人道支援を政治的不作為の言い訳にするな」という冷徹な警告であった。外交・国際政治の修羅場を潜り抜けてきた彼女は、熱い情熱と同時に、冷ややかなまでのリアリズムを併せ持つ卓越した戦略家でもあった。