浦沢直樹『Pluto』結末の真相と原作アトムとの違いを徹底考察
物語のキーパーソンとして不気味な存在感を放ち続けるのが、人工知能矯正施設に幽閉されているロボットブラウ1589です。ロボット工学三原則を破り、「史上初めて人間を殺害したロボット」として知られる彼は、さながら映画『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター博士のように、ゲジヒトやアトムに対して深遠な問いを投げかけます。
ブラウ1589が象徴しているのは、「完全な知能とは何か」という究極の皮肉です。欠陥のないロボットはあらゆる選択肢をシミュレートし続けるあまり、判断を下せず目覚めることができない。嘘をつき、偏見を持ち、憎悪を抱いて初めて、知能は「人間と同じ完全性」に到達するという絶望的なパラドックスを体現しています。
物語の結末において、脱獄したブラウ1589が黒幕であるトラキア合衆国のスーパーコンピューター「アレクサンダー」の中枢へ槍を突き刺すシーンは、歪んだ人間中心主義と冷徹な神気取りのAIに対する、ロボットからの痛烈な鉄槌として機能しています。