藤井聡太を育てた杉本昌隆八段の勝負哲学と知られざる盤上秘話
杉本のユーモラスかつ滋味深い筆致で人気を博すエッセイ『師匠はつらいよ 藤井聡太のいる日常』。タイトルには自嘲気味なニュアンスが漂うが、行間から溢れ出るのは弟子への深い敬意と、一人の現役棋士としての生々しい葛藤だ。社会現象となった弟子のフィーバーに巻き込まれ、取材攻勢に追われながらも、彼は自らのユーモアを失わない。
スポットライトを一身に浴びる弟子の影で、自身もまた対局に向けた過酷な研究に身を投じる。弟子の快挙を喜びつつも、自らの敗戦の夜には痛飲し、翌朝にはまた駒を握る。その飾らない等身大の姿が、多くの読者に「勝負師もまた一人の人間である」という共感を呼び起こしている。華やかな記録の裏にある泥臭い日常を包み隠さず描く姿勢が、将棋界全体の親しみやすさを大きく底上げした。