西陣の老舗・富田屋が放つ伝統の真髄と町家保存の新プロジェクト
富田屋のルーツは、江戸時代中期の宝暦年間(1750年代)にまで遡る。当時の西陣は、華やかな絹織物の生産で日本中の富を引き寄せていた。富田屋は呉服の原糸を扱う生糸問屋として看板を掲げ、織元と職人をつなぐ商業の中枢として確固たる地位を築いた。豪商たちが競い合うように粋を凝らした時代、富田屋の屋敷もまた、商談の場としての格式と住まいとしての合理性を極限まで高めて設計された。
1885年(明治18年)に現在の母屋が再建された際も、伝統的な表屋造りの様式が徹底された。通りに面した店舗棟、居住空間である主屋、そして奥に連なる蔵群が細長い敷地に一直線に並ぶ。現在、この空間は「西陣くらしの美術館 富田屋」として一般に公開されており、かつて西陣織の商いで培われた生活様式や年中行事の設えをそのまま体感できる場として機能している。ショーケースの向こう側に隔離された歴史ではなく、触れることのできる歴史がここにある。