象の寿命はなぜ人間並みに長いのか?がん耐性遺伝子と長寿の真実
日本において象の寿命と飼育の歴史を語る際、外すことができない存在がいる。東京の 井の頭自然文化園 で暮らした はな子 (アジアゾウ) だ。戦後間もない1949年にタイから来日し、2016年に息を引き取るまで、国内最高齢記録となる69年の生涯を全うした。戦後の復興期から半世紀以上にわたり多くの人々に愛された象徴的な存在である。
しかし、はな子の69年という記録的な長寿の裏には、近代的な飼育環境の模索と苦悩の歴史が刻まれていた。コンクリートの獣舎での長年の単独飼育は、彼女に深い孤独と常同行動をもたらし、晩年には海外メディアから「世界で最も孤独な象」と批判を浴びる契機にもなった。彼女が遺した教訓は、単に肉体的な寿命を延ばすことだけが保護ではなく、群れで生きる象本来の社会的知性を尊重した「QOL(生活の質)」の担保こそが不可欠であるという、日本の動物園飼育哲学の大転換をもたらした。