枠組みを壊す表現力、井手上漠が切り拓く新境地と知られざる素顔
原点を辿れば、2018年の「第31回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」に行き着く。従来の男性美のステレオタイプが集うこの歴史ある登竜門において、DDセルフプロデュース賞を受賞した出来事は、日本のエンタメ史における一つの特異点だった。審査員だけでなく、お茶の間を釘付けにしたのは、誰かの模倣ではない徹底したセルフディレクション能力である。
島根の中学時代、周囲との差異に悩み、一度は髪を短く刈り込んで「普通」に擬態しようとした葛藤。そこから母の「漠は漠のままでいい」という一言によって解き放たれた物語は、同世代の若者たちにとって単なる美談ではなく、生き延びるための実践的な哲学として受け止められた。コンテストへの挑戦は、自らの存在を肯定するための闘争宣言でもあったのだ。