『風立ちぬ』とユーミン|宮崎駿が流した涙と名曲に隠された真実
配給を担った東宝にとっても、これは極めて大胆な挑戦だった。大作映画の主題歌といえば、話題のアーティストによる書き下ろしの新曲をタイアップさせるのが商業映画の常道だ。しかし、スタジオジブリが選んだのは1973年発表のファーストアルバム『ひこうき雲』の表題曲だった。
新譜ビジネスの常識を覆すこの決断は、日本映画界に鮮烈なインパクトを与えた。公開後、映画館へ足を運んだ観客は、劇伴音楽のように映像と溶け合う楽曲の力に圧倒されることになる。懐メロとしての消費ではなく、映画のクライマックスを完成させる最後のピースとして機能したのだ。
結果として映画は大ヒットを記録し、アルバム『ひこうき雲』も再びチャートの上位へと急浮上した。本物の芸術は時代に風化しないという事実を、興行と音楽の両面から証明してみせた賭けだった。