黒川雅之の神髄に迫る:Moma名作「Gom」から最新構想の全貌
1970年代初頭、日本のインダストリアルデザイン界に走った衝撃を、当時の関係者は「黒い革命」と呼んだ。その中心にあったのが、のちにニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久収蔵品となる「GOMシリーズ」である。プラスチック全盛期へと向かう時代にあって、黒川が選んだのは工業用ゴムと真鍮の組み合わせだった。
当時、ゴムは機械の内部パッキンやタイヤに使われる裏方の素材に過ぎず、美の対象として人前に出ることはあり得なかった。だが、黒川はそこに「人間の皮膚に近い官能性」を見出した。試作段階では、ゴムの成形精度の低さや経年劣化を懸念する町工場の職人から猛反対を受けたという。しかし彼は、ゴムのマットな黒が放つ光の吸収力と、真鍮の放つ鈍い反射の対比に徹底してこだわった。自ら工場に通い詰め、バリの処理から金属との接合構造まで手作業で追い込んだ末、あの静謐な灰皿やコースターが誕生したのだ。道具を手で握ったときの微かな沈み込み。その一瞬の触覚体験こそが、MoMAをはじめとする世界の審美眼を唸らせた真髄だった。