丙午の女性を縛る迷信の正体とは?歴史的背景と激変する意識の深層

丙午の女性を縛る迷信の正体とは?歴史的背景と激変する意識の深層

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火の象徴が女性への偏見へと決定的に結びついた契機は、江戸時代初期に起きたある放火未遂事件だった。天和2年(1682年)、大火で焼け出された寺で出会った寺小姓に恋い焦がれ、もう一度会いたい一心で自宅の薪に火を放った少女――それが八百屋お七である。鈴ヶ森刑場で露と消えた彼女の物語は、瞬く間に江戸市中の大衆の心を捉え、都市伝説として肥大化していった。

決定打を放ったのが、浮世草子の流行作家・井原西鶴である。西鶴は事件のわずか3年後、代表作『好色五人女』のなかでお七を情熱的かつ破滅的なヒロインとして描き出し、彼女の生まれ年を「丙午」へと意図的に設定した。史実におけるお七の生年は異説が多く定かではないにもかかわらず、西鶴の巧みな筆致は「丙午の生まれだからこそ恋の炎に狂った」という筋書きを人々の脳裏に焼き付けた。

さらに人形浄瑠璃や歌舞伎の舞台『伊達娘恋緋鹿子』によって、お七が雪の中で半鐘を打ち鳴らすドラマチックな姿は日本全土へ拡散された。メディアミックスの熱狂の中で、エンターテインメントの虚構がいつしか「丙午生まれの女は家を焼き、男を滅ぼす」という奇怪な迷信へとすり替わっていったのである。

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中川 明日香

中川 明日香

ビジネス戦略アナリスト

エンタメ・カルチャー業界の深掘り取材を得意とし、現場のリアルな声をお伝えします。